Tsurumen Tokyoの社会課題解決型ラーメンビジネス

January 25, 2021
Tsurumen Tokyoの社会課題解決型ラーメンビジネス
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営業は1日2時間だけ、200日ごとにラーメンを刷新し、1000日間だけしか営業せず、1杯の価格は20ドル……。2018年、米国はボストンに登場するや一躍有名になったラーメン店「Tsurumen Davis(ツルメン デイビス)」は、とにかく話題性にこと欠かない。しかし決して奇をてらったり、マスコミ受けを狙っているわけではない。一過性のブームで終わるような店とも違う。表面的には奇抜に映る取り組みの根底には、オーナーである大西益央さんの、働き方を改革したいという熱い思いがあるからだ。

大西益央さんはニューヨークでポップアップのラーメン店などを営み、2018年に「Tsurumen Davis」をボストンで開店した。

“Tsurumen”が日本に凱旋したのは2020年8月30日。その名は「Tsurumen Tokyo(ツルメン トウキョウ)」。最寄駅であるJR亀戸駅から徒歩10分以上と、お世辞にも便利とは言えない立地にオープンした「Tsurumen Davis」の姉妹店だ。本店同様、1000日後には閉店することが決まっている。営業はボストンの本店とは異なり昼夜それぞれ2時間ずつとしたが、それでも1日4時間だけだ。

「Tsurumen Tokyo」の店内はカウンター6席に、4人がけのテーブルが1卓のみ。

「ラーメンにしては高価格」という認識の調整が難しい

Tsurumen Tokyoでは現在、1,200円の「Formula(フォーミュラ)1985」、1,500円の「どてそば」、2,000円の「Formula1995」の3品を提供している。

Formula 1985は大西さんが子どもの頃に食べた味わいを再現したラーメンだという

大西さんの食体験に由来するFormula シリーズのうち、1985はストイックな鶏ガラベースのスープが味わえるシンプルな一品、1995はそこに乾燥マツタケのだしを合わせたリッチな味わいのワンタン麺だ。粉の味わいをしっかり感じられる麺は、手動の製麺機で注文後に製麺する。ただし、これらのメニューは200日単位で変更される。

Formula 1995は、200日前までボストンの店で提供していたラーメンだ。

ラーメンの他には、500ml缶だが3,000円で販売する米国産クラフトビールをはじめとするアルコール類も用意。取材時は「81/1000日目」だったが、この時はラーメンを含めた4品で構成する3,800円のコースも提供していた。

米国マサチューセッツ州の「Tree House Brewing(ツリーハウスブルーイング)」が醸造したクラフトビール「Julius( ジュリアス)」はなんと3,000円だが「めちゃめちゃ売れるんですよ」と大西さん。

疑問だらけのラーメン店

疑問が次から次へと沸いてくるだろう。なぜ1日4時間限定なのか、どうやって利益を出しているのか、この価格設定で客が本当に来るのか。そして、1000日間で店を閉める理由は何か。まずは、Tsurumen Tokyoの根幹ともいえる営業時間と価格設定の考え方を大西さんに訊いてみた。

「外食産業、特にラーメン業界は低賃金・長時間労働が常態化しています。1日14時間労働が当たり前で、それでいて賃金は平均的な会社員よりも低い。これでは若い子が働こうと思わないから、業界の先行きが見えません。だから、一般企業と同じように1日8時間の労働で利益を出せるようなラーメン店を出店したかったのです」

Tsurumen Tokyoでは昼夜のスタッフがそれぞれ自分で売る分の仕込みを行なっているという。

製麺やスープづくりなどの仕込みに最低でも6時間はかかるラーメン店で8時間労働を実現するには、営業時間は2時間に限られる。そのため店舗の稼働を昼と夜に分け、昼担当の従業員と夜担当の従業員がそれぞれ6時間の仕込みと2時間の営業を請け負い、店としては1日4時間営業するという仕組みを作った。

夜の部を担当する梅崎梨夏さんは次のように話す。「私はラーメン好きが高じて大学卒業後にチェーンのラーメン店に就職しました。その後もラーメンづくりに生かせると思って、フレンチや和食も経験しています。以前勤めたラーメン店ではそれこそ朝から晩まで働いていましたが、Tsurumen Tokyoでは自分の時間を取れるようになったので、将来に向けて準備することもできます」

夜の営業を担当する梅崎梨夏さん。開店して81日目だが、すでに梅崎さんのラーメンを食べに来るリピーターも。

価格設定の常識が覆る

営業時間を1人あたり2時間に限定することで、働きやすい環境をつくり、それによってモチベーションを高める。従業員にとっても、経営者にとってもいいこと尽くめのように思えるが、問題はどうやって利益を出すかである。

外食業界には「原価率は30%が適正」というお題目が存在するが、この30%という数字にはほとんど根拠がない。50%を超える高原価率を売りにした立ち食いのフランス料理店が流行ったこともあったし、原価率が10%台の外食店だって少なくない。要はたくさん利益が出ればいいのであって、収益構造は店により異なってしかるべきだ。 大西さんの場合は、値付けの際に原価率を最初から考慮に入れていない。価格設定の前提となるのは「営業時間」と「売上げ」である。まずは1日に必要な売上げを設定する。それを営業時間内で提供できるラーメンの杯数で割った数字が、そのまま価格に反映されているのだ。

価格が店や客の都合で変動する!?

ここで気になるのが、単価が上がることで客層が限定されてしまう点だ。大西さん自身も10代のときに500円玉を握りしめて食べに行った大阪のラーメンが自分の原点だと語る。業界や従業員のためとはいえ、ラーメン1杯が2,000円という値付けに対して葛藤はないのだろうか。

「もちろん、ありますよ。裕福でない方にも、学生さんにも自分のラーメンを食べてほしいですから。そこで、これから挑戦したいのが『ダイナミック・プライシング』の考え方を採り入れた価格設定です」

ダイナミック・プライシングとは、繁忙期には価格が高く、閑散期には安くなるというように、需要と供給のバランスに合わせて価格が変動する仕組みで、ホテルの宿泊費や航空券の料金ではおなじみ。日本の外食業界で意識的に採り入れている店はまだ少ないが、例えば12時~13時の混雑時は1杯2,000円のラーメンが、13時以降は1,000円になるというような具合に、飲食店でも実用しているケースはある。また「お金持ちの人は2杯分のお金を払って、1杯のラーメンを誰かにごちそうしてあげるというような、ドネーションの考え方」の導入も考えられているという。

「これらをさらに応用して、普通に行列に並んで食べる場合は1,000円ですが、待ち時間を有効に使いたい人は3,000円で並ばずに食べられるという有料優先整理券のような仕組みも検討中です」

大西さんの言う「有料優先整理券」方式なら、お金に余裕のある人は高いお金を払って時間を買うことができ、反対にお金に余裕のない人でもラーメンを食べることはできるわけだ。例えばWEB上で来店時間を指定できる予約を可能とし、クレジットカードなどで事前決済する仕組みを採用すれば「有料優先整理券」は実現に近づくだろう。見えない行列をWEB上に作ってしまうというわけだ。

所得水準でも価格を変動!?

さらに大西さんは所得水準によって価格を変動させるというダイナミック・プライシングの進化系を視野に入れているという。学生や所得の低い人には安く、高所得者からは高い料金をもらうという。こんなことをすると日本ではすぐに「同じ商品なのに価格が違うなんて不公平だ」という声が出てきそうだ。しかし、お金を持っている人からたくさん取るのは当たり前という考え方も成り立つ。ここまでくると、何が本当の「公平」なのかという問題になってくるが、大西さんは実際これに近い仕組みを既に取り入れたことがある。

ボストンの店ではペットボトルの水を無料で提供したり(その代わりにチップ箱を設置し、懐に余裕のある人はチップを入れる。3人に1人は1ドル程度を入れるそうだ)、アルバイトスタッフが20分間皿洗いをすれば無料でラーメン食べられるといった取り組みをすでに実施し、確かな手ごたえを掴んだという。

レシピではなく人に付加価値を

しかしながら、お気づきのとおり、ここまではいわば机上の話だ。いくら理想が高くても実際には2時間の営業中にお客さんが引っ切りなしに入っていなければ、商売として成立しない。

「ボストンではラーメンが1杯20ドル(約2,000円)ですが、毎日大行列ができています。20ドルを高いと思うか安いと思うかは人それぞれですが、少なくとも万人に理解してもらう必要はありません。ボストンの場合は20ドルのラーメンを食べてくれる人が、席数×回転数の最大値である60人、毎日来ていただければ、それで商売として成り立つわけです」

麺も自家製。梅崎さんが毎日仕込むという

繁盛している要因を大西さんは次のように分析する。

「この価格のラーメンを売るために大切なのが、スタッフが胸を張って高いラーメンを売れるかどうか。そのために、最高の自信を持てるような準備をします。決して安くはないラーメンを自信を持って提供するだけの入念で丁寧な仕込みをする必要があるので、営業時間は2時間なのです。ラーメンの品質だけでなく、高い価格に見合うだけの空間やサービスを提供するのも当然のことですが、最も大切なのは『人』です。お客さまにとって大事なのは『何を食べるか』よりも『誰が作るか』だと思うんです。あの人が作るラーメンを食べに行きたいと思っていただくことが何よりも重要だと考えています」

Tsurumen Tokyoでは、ラーメンを提供することもパフォーマンスだと捉えており、スタッフの名前を取って昼の部を「AKIRA SHOW」、夜の部を「RINA SHOW」と銘打っている。これも「人」にフォーカスさせるための演出のひとつだ。

営業することは、ラーメンをプレゼンテーションするショーである。そんな意思が看板からも感じられる。

外食産業の構造的な課題である長時間・重労働の問題にメスを入れ、価格設定の常識を覆し、富の偏りを是正する試みまで実践する。次から次へと固定観念を覆すTsurumen Tokyoの取り組みは「人間らしく働くこと」ひいては「持続可能な働き方をすること」に収れんされていくのかもしれない。人材にこそ持続可能性や再生産の可能性が必要なのだという、自明の理に気付かされる。

1日1日を大切にしてラーメンを昇華させ続けている。

飲食店の持続可能性を応援する方法

まさに「人的リソースのSDGs」とでも呼びたくなるような大西さんの取り組みは、外食産業が抱える課題を解決する可能性を秘めている。そしてその発想の原点はたとえば営業時間のような「固定観念を疑う」ことなのかもしれない。固定観念というものはときに本質理解を妨げることもあるということを大西さんの取り組みは教えてくれている。

日常的にも固定観念にとらわれている場面はあるだろう。たとえば、高額な年会費が発生するクレジットカードは、年会費の金額だけを見て、「敷居が高い」「富裕層が使うもの」と考えてしまいがちだ。しかし、実際に利用してみると、年会費以上の「お得」や「安心」を感じることも多く、富裕層だけが使うものではないことがわかる。

インターネット上での取引をはじめ、クレジットカードの利用時には現金にはないリスクも想定されるが、カードには年会費に応じたセキュリティが付帯しているケースも多い。たとえばアメリカン・エキスプレスの一部のカードには「オンライン・プロテクション」と呼ばれるサービスが付帯しており、第三者によるインターネット上での不正使用と判明したカード取引については、原則として利用者が利用金額を負担する必要はない。これは、「カードを利用して詐欺にあったらすべて自己負担」という固定観念を一度疑うことで救われるケースだろう。

さらに、アメリカン・エキスプレスの一部のカードには急な出張や突然の病気・怪我による入院などで予約していた旅行を中止したり、チケットを購入してあったコンサートに行けなくなったなどの場面でキャンセル費用を補償する「キャンセル・プロテクション」と呼ばれる仕組みもある。1,000円(もしくは「キャンセル費用の10%に相当する額」のいずれか高い額)の自己負担は発生するが「さすがにキャンセル料は自己負担だろう…」という固定観念が、このサービスによって覆ってしまう。

また、アメリカン・エキスプレスの一部のカードは使用店舗が限られている、という固定観念も根強く残っているだろうが、実はamazonや楽天などの大手ECサイトをはじめ、多くのネット決済で利用可能だ。インターネットショッピングの機会が増えた今、「安心」な決済手段を使えるメリットは大きい。

いずれも当然ながら個別の事例によるケースバイケースなので、対象外と判断されることもあるが、このような付加価値を考えると年会費も決して高くないのではないか? という気付きも生まれるだろう。新しい生活様式にも慣れてきた今こそ、一度、日常での固定観念を疑ってみると、あなたの生活も一変するかもしれない。

TEXT : 石田哲大 PHOTO : 八田政玄

▼Tsurumen TOKYO(ツルメン トウキョウ)公式Instagram

LifExpress編集部

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