南三陸町「戸倉っこかき」に学ぶ、海のSDGs

January 07, 2021
南三陸町「戸倉っこかき」に学ぶ、海のSDGs
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宮城県の北東部、志津川湾を抱き込むようにして三方を山が囲む南三陸町。古くから牡蠣やわかめなどの養殖が盛んなこの町で、養殖量を敢えて3分の1に減らした結果、生産量は2倍に、生産額も1.5倍になったことで話題になった地区がある。志津川湾の南岸に位置する戸倉(とぐら)地区だ。

甚⼤な被害を受けた東⽇本⼤震災から10年⽬を迎えるいま、⼾倉地区を訪れると、海も⼈も経済も、さまざまなことが持続可能になるという、第一次産業のSDGsの一例として注目したい状況が⽣まれていた。⽣産量や⽣産額が増えて漁師たちの収⼊が安定しただけでなく、養殖に必要なコストが圧縮され、労働時間も短縮、後継者たちも海に戻ってきているという。

「牡蠣は同志であり、師でもある」と話す後藤さん。

第一次産業従事者にとってはまさに夢のような状況だが、ここまで辿り着くために乗り越えてきた壁は相当に高かったはずだ。なぜこんな状況が生まれたのか?何をやって、何をやらなかったのか?宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉出張所の牡蠣部会長・後藤清広さんにお話を聞いた。

「戸倉っこかき」の美味しさの理由

戸倉地区で水揚げされる牡蠣は「戸倉っこかき」というブランドを冠して市場に出回っている。「養殖量を3分の1に減らすまでは、牡蠣が出荷できる大きさになるまで短くて2年、長いと3年の歳月が必要でした。しかし今ではたった1年で出荷できています。1年ものの牡蠣は、2〜3年かけて大きくなる牡蠣と比べて、渋みが少なく甘味が濃いんです」と後藤さん。牡蠣も動物。歳を重ねるごとに老化する。毎年産卵するたびに、渋みと臭みを帯びる。1年で出荷できるということはそのまま美味しさに直結するのだ。戸倉地区の牡蠣のシーズンは毎年10月上旬から翌5月末まで。どの時期に味わっても“クリアで綺麗な味”を楽しめるが、特に12月から翌2月ぐらいまでの身が入った牡蠣は濃厚なクリーム感も堪能できる。

「戸倉っこかき」は水揚げした後、殺菌のために浄化タンクで22時間以上おいてから出荷される。

養殖量と牡蠣の成長速度の関係

しかし、なぜ養殖量を減らすと牡蠣の成長が早まるのだろうか。「生産量が減ったことで、海中の栄養と酸素の循環効率が高まり、牡蠣にまんべんなく行き渡ったことが主な要因と考えられています」と後藤さんが説明してくれた。

志津川湾の牡蠣養殖は1960年代に始まった。そもそも牡蠣の餌である植物性プランクトンは、山から注ぐ淡水と海水とがバランスよく混じり合う汽水域に多い。山に降った雨がミネラルなどの養分を含みながら地下水となって海へと注がれ、その栄養によって海中でプランクトンが成長し、牡蠣はそれを捕食して育つのだ。リアス式海岸特有の海と山とが近接した地形ゆえ、志津川湾には山の養分がダイレクトに湾へと注ぐ。湾の海底では至るところで真水が湧いているそうだ。

山と海の距離が近い志津川湾。牡蠣は山によっても育まれている。

牡蠣にとって志津川湾は格好のゆりかごだったのかもしれない。養殖が始まった当初は、養殖筏を増やすほどに生産量が上がったそうだ。後藤さんはこう言う。「美味しい牡蠣は、殻をむくとうっすらとしたグリーンなのです。きっと植物性プランクトンの葉緑素のためではないか? と私は思っているのですが」

きっかけは東日本大震災

養殖漁業が本格化するにつれて、牡蠣だけでなく、ホタテやホヤ、そして銀鮭などの養殖で志津川湾は潤った。しかし、過度な養殖は海への負荷を伴う。養殖による堆積物が次第に海底に積もり、泥状になった堆積物は海域の栄養循環を滞らせ、海中の酸素を奪うようになった。当初は1年で出荷できていた牡蠣も成長のスピードが鈍り、出荷できるまでの期間は1年から2年、2年から3年…という具合に伸びる。それに伴って労働時間も長くなり、日曜も休めない。水揚げした牡蠣は品質が悪く安値で取引されてしまう。そんな悪循環が無限に続き、漁師たちが海の限界を体感してしばらくの年月を経た2011年3月11日、東日本大震災は起きた。

東日本大震災前に撮影された志津川湾の様子。牡蠣の養殖筏が密集していた
提供:宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉出張所

津波は人々の営みをことごとく奪ったが、同時に海底の堆積物も流され、奇しくも養殖漁業が盛んになる前の海が再生されることとなった。

「私たちは自然の恩恵を受けて暮らしていることをいつの間にか忘れてしまい、海にも山にも負荷をかけながら牡蠣の養殖をしていました。でも、これからは何世代にもわたって継続できる持続可能な養殖を目指すべきだと考えたのです」

何もかもなくした今こそ、養殖筏(いかだ)を減らそう

後藤さんが続ける。「1粒の牡蠣は1日に400ℓの海水を飲み、プランクトンを濾し取って排出するといわれています。養殖筏1台に6〜10万個の牡蠣がついているので、およそ4万トンの海水が毎日必要になります。そこから逆算すると、筏と筏の間隔を40m開ける必要があることがわかりました。それを実現するには一経営体あたり20台以上所有していた養殖筏を7〜8台、つまり3分の1に減らす必要があることがわかったんです。何もかも失くしてしまった今しかチャンスはないと感じていました」

「牡蠣は陸上に上げても2週間くらいは普通に生きている。強く前向きな生き物です」と後藤さんは言う。

震災から3ヶ月が経過した2011年6月、戸倉地区の牡蠣漁師を束ねる部会長に就任した後藤清広さんは37人の組合員の前で養殖筏の削減案を提示したという。「漁船や漁具だけでなく、家や加工場などを再建するために、漁師全員が莫大な借金を抱えていました。当時感じていた不安や葛藤は言葉にはできないほどでした。でも、自分たちが培ってきた自然との本来の関係性に立ち返り、勇気を持って牡蠣の生産量を減らすという結論を組合員全員で出すことができたんです」

戸倉地区の牡蠣漁師たちが目指した復興は「元に戻す」ことではなく「新たに始める」こと。海を労りながら行う持続可能な牡蠣養殖が始まった。

養殖漁業の認証制度「ASC」

「漁場の環境は改善されましたが、以前のように戻ってしまう可能性もある。私たち漁師にも意識改⾰が必要だと感じました」という後藤さん。そこで目をつけたのが海の自然を守りながら責任を持って養殖している団体にのみ与えられる「ASC」の仕組みだった。養殖漁業による水産物を対象に「Aquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会)」が認定する国際的な認証制度だ。

2016年3月30日、宮城県漁業協同組合志津川支所の戸倉出張所が手掛ける牡蠣養殖が、日本では初めてとなるASCの漁業認証を取得した。
提供:ASC

【ASCの7つの原則】
 1.法令順守
 2.環境・生物多様性の保全
 3.天然種苗への影響軽減
 4.病気・有害生物の管理
 5.資源の効率的な使用
 6.地域社会に対する責任
 7.適切な労働環境

国際基準の認証を受けるには、125の審査項目からなる、上記の7つの原則をクリアしなければならない。

海の環境だけでなく、社会環境や労働環境にも配慮が必要だという難関だが、後藤さんが特に着目したのは「法令遵守」だ。3年ごとに第三者による審査があり、1項目でも失してしまえば認定が取り消される「ASC」。苦渋の選択の末に獲得した持続可能な牡蠣養殖を永続させるために、自ら取り決めたルールを漁師たちが守り続ける仕組みとして「ASC」認証を活用しようとしたのだ。

減らすことで生まれた恩恵の数々

2016年3月に戸倉地区の牡蠣養殖が国内で初めて「ASC」認証を受けてから4年。以前より3倍のスピードで成長する牡蠣は出荷まで3年かかっていた頃の牡蠣より個体も大きく、安定して高値が付いているという。

戸倉地区の牡蠣漁師を夫に持ち、地元の海産物のネット通販を手掛ける阿部民子さんによれば、以前は土日も関係なく早朝から夕方まで12時間以上働くのが当たり前だったが、出荷する牡蠣の数が減ったので、作業は正午までには終了。週に1日か2日は休めるようにもなったという。さらに、毎年台風の季節になると、荒れた漁場でロープが絡まり、牡蠣が台無しになる被害も少なくなかったというが、今では養殖筏の間隔が広いため、被害は最小限に食い止められているそうだ。

これは地域外からの顧客にASC導入前後の違いを説明するために阿部さんが使っている自作の資料。自分の時間を持てるようになったことが次の生産活動にもプラスになるという。

「町を離れ、別の仕事に就いていた息子が、今年(2020年)の1月に『牡蠣を継ぐ』といって戻ってきてくれました」と顔を綻ばせる阿部さん。震災前は地区に8人しかいなかった20〜30代の若手漁師は、今では18人にまで増えたという。

これらはすべて養殖量を3分の1に減らすことによって生まれた恩恵だ。震災後の漁場改革を通して戸倉地区の漁師が牡蠣から得た多くの学びは、社会のさまざまな分野で取り組まれている持続可能な開発目標に対する施策が必要としているものと、きっと重なる点が多いだろう。

持続可能な養殖業を消費者として支える手段

「戸倉っこかき」が美味しくなるのは年末年始の時期だ。漁協が出荷する「戸倉っこかき」は主に関東のスーパーにも出回るが、南三陸町内の業者が運営するECサイトからも購入できる。

消費することが、何かの、そして誰かの応援になる。そんな考え⽅は、2011 年の東⽇本⼤震災以降私たちのデフォルトになりつつある。今回のコロナ禍では飲食店からの需要減により大量の在庫を抱えた生産者を「食べて」応援するという意識が広まり、それがさらに顕在化したともいえよう。また、ここ数年のクラウドファンディングの普及もあり、「応援消費」という行動は私たちにとって馴染み深いものになりつつある。確かに、個人消費の金額は小さいものの、多くの人が消費活動をすることで「戸倉っこかき」のような取り組みを支えることができる。おいしさで選ぶのはもちろん、生産者の理念に共感し、SDGsの輪に消費者として加わるために購入する――こうした消費行動は、2020年代の新たなスタンダードとなっていくだろう。

ECサイトからの購入は場所と時間を選ばないため今や日常的な手段となっているが、第三者への個人情報流出という不安も少なからずあるだろう。アメリカン・エキスプレス・カードには「オンライン・プロテクション」と呼ばれるサービスが付帯しており、第三者によるインターネット上での不正使用と判明したカード取引については、原則として利用者が利用金額を負担する必要はない。さまざまな決済手段がある今だからこそ、自分にふさわしいものを選んでほしい。

TEXT : 三好かやの PHOTO : 編集部
写真提供:宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉出張所、ASC

▼戸倉っこかき 公式HP

▼たみこの海パック ECサイト

LifExpress編集部

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