購入すれば環境問題も難民問題も解決に近づく、エシカルパソコンとは

January 07, 2021
購入すれば環境問題も難民問題も解決に近づく、エシカルパソコンとは
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国内で毎年捨てられているパソコン(PC)の数をご存知だろうか。じつに300万台だという。重さにして6000トンにもなるそれら廃棄PCの中には、単に型落ちしてしまったものや、部品の一部だけが破損・故障したもの…つまり、まだ使えるPCも少なくない。これらの中古PCを引き取り、新品と同様のスペックに入れ替えて販売する「ZERO PC」が注目を集めている。しかもこの「ZERO PC」を購入することで、ユーザーは「難民の雇用と生活の安定」「紛争解決」「温室効果ガスの排出削減」に貢献できるという。いわば「エシカルパソコン」だ。その仕組みと企業哲学について、「ZERO PC」を手掛ける株式会社ピープルポートの代表、青山明弘さんに聞いた。

株式会社ピープルポートの代表、青山明弘さん
青山さんは大学を卒業後、新卒で株式会社ボーダレス・ジャパンに入社。2年目に台湾支店の立ち上げを担当し、2年で黒字化。帰国し、2017年にピープルポート株式会社を立ち上げた。

難民の経済的貧困と社会的孤立をなくすために

東急東横線の菊名駅を降りて線路脇の道を歩くと、5分ほどでピープルポートの修理オフィスが見えてきた。外からガラス越しに覗くと、木目のデスクが並ぶ、明るく広々としたオフィスで、日本人を含む国際色豊かなスタッフがPCを分解したり、動作確認テストをしたりしている。たまに顔を上げて短い会話を交わす柔らかな表情には、互いへの信頼が見て取れる。

ピープルポートのオフィス
通りに面したピープルポートのオフィスにはPCを始めとした家電の持ち込みを歓迎する旨のサインが掲げられている。

中古PCはデータを消去された後、動作するか否かを確認し、動作しないものは分解し部品単位でリサイクル市場に出される。動作するものは修理され、データ記憶媒体を新品に入れ替えたのち最新のOSを積んでエシカルパソコンとして販売される。その数は現在年間で約1500台だ。

修理後のPCの動作確認をするスタッフ
修理後のPCの動作確認をするスタッフ

ピープルポートは、ソーシャルビジネスを通じて社会課題の解決に取り組む社会起業家集団「ボーダレス・ジャパン」の傘下企業だ。

「ボーダレスグループの事業の作り方の特徴は、ビジネスコンセプトの前に『ソーシャルコンセプト』を作ることです。つまり①誰の②どんな状況を③どんな風に変えたいか。この3つをチャートで作成します。特に、①②が重要で、私の事業の場合は『難民』が①に当たります。難民とはどういう人で、彼らが今どういう状況で、何が課題かというのを、一人一人の顔が見えるくらいまで掘り下げました」

大学時代にカンボジアで内戦経験者の話を聞き、ソーシャルビジネスでの紛争解決や被害者の支援をライフワークにしようと決めたという青山さん。日本に来る難民の支援をするための手段としてエシカルパソコン(中古のPCリサイクル)というビジネスを発想した理由を尋ねると「それが最も有効だと気付いたからです。しかし僕自身全くPCのことを知らなかった…」と振り返る。2017年のことだ。「僕ひとりで本当に見よう見まねで始めました。まずドライバーでPCを開けて『で、CPUってどれだろう』って…(笑)。今考えると無謀ですが、使命感に燃えていて、これしかないという思いでした」

青山明弘さん

難民が抱える2つの課題

日本に来る難民は2種類の大きな問題に立ち向かわなければならない。
まずは経済的貧困だ。日本に来ている難民の方は日本語が話せない/読めないことが多い。それゆえ、日本に入国してから住まいや職を見つけるのが非常に困難だ。入国してしばらくは路上生活を余儀なくされた方も多いという。加えて、難民申請をして認定されるのに平均3年間、長い人だと10年間もかかるケースがあるという。さらに申請者が認定される割合はなんと「0.4%」。2019年は1万人以上の申請者に対して、わずか44人しか認定されなかった。職を得ても、面接時に彼らが聞いていた給料よりも低い金額で働かざるを得ない状況に置かれたり、景気や会社の経営状況次第では真っ先に解雇の対象となるケースもあるという。

次に社会的孤立だ。辛い状況を相談し、励まし合う家族も友人もいない。今や社会インフラとして必須なインターネットへのアクセスも容易ではないという。母国から持ち込んだスマートフォンを持っていても、インターネット代を払うことができず使用できない場合も。日本は海外と比べてフリーWi-Fiの普及率が低いこともあり、相談窓口にアクセスするのも困難なのだ。

避難を希望する人々が難民認定率の低い日本を選ぶ理由のひとつは「避難先を選ぶ余裕がない」からだという。
避難を希望する人々が難民認定率の低い日本を選ぶ理由のひとつは「避難先を選ぶ余裕がない」からだという。

それらの問題を解決できるビジネスとして、日本語が理解できなくても就業できるPCのリサイクルを思いついたという。これなら、いずれ母国が安定して帰国できた場合も、スキルは活かせる。「日本で事業をするので、日本が直面している課題解決にも寄与したいと思いました。その中で着目したのが都市鉱山です。毎年大量のPCやスマホが埋立地に廃棄されていることを知り、リサイクルで都市鉱山の削減に寄与できるのではと考えたわけです」

リサイクルからアップサイクルへ

「当初はパーツ分解をして資源リサイクルを考えていました。蓋を開けてみたら2割くらいのPCが、ちょっと直せばまだ使えることがわかったんです。あれ? これってリユースしてアップサイクルを作ればいいんじゃないかな?と」

パソコンは製造時の環境負荷が高いことで知られており、1台を製造するのに約300kgのCO2を排出し、洗浄などで約19万リットルの水を使う。リユースすることでこれらのCO2排出量と水の使用量を削減し、環境負荷を減らすことができるのだ。さらに青山さんは、PCのマザーボード(基盤)には金や銅、そしてレアメタルなどの紛争の原因になる希少な鉱物が使われていることに着眼した。

「これも奪い合うのではなくリユースすることで紛争解決につながると考えました」

アフリカ諸国などの紛争地域で採掘された、紛争の原因となる鉱物資源は「紛争鉱物(Conflict Minerals)」と呼ばれるが、PCをリユースすれば紛争鉱物のニーズをわずかだが下げることができるかもしれない。

さらに、経済面で困難な状況にある子どもたちを支援するNPO団体とパートナーシップを組み、PCを無料で引き取るごとに一定額がそのNPOに寄付される仕組みも実現している。

コンデンサ
コンデンサ(蓄電・放電を行う部品)は、タンタルと呼ばれるレアメタルで作られることが多い。タンタルの主な産出国はコンゴ民主共和国で、世界の産出量の39%を占めるともいわれる。

エシカル消費と「安さ」が両立する

購入者の属性としては、これまで新品のPCのみを購入していた人が圧倒的に多いという。

「最初のお問い合わせ時には取り組みに共感したというお客様が9割です。そして商品について詳細に説明すると、ZERO PCを“中古品”ではなく“新品”と比較してくださるお客様がとても多いんです」

エシカルパソコン「ZERO PC」は、ユーザーフレンドリーでもある。機能や価格、商品の品質面でも妥協はしないのだ。「実際、中古PC市場の相場と比べると割高です。でも『ZERO PC』は新品と同じくらい初期設定も簡単で、新品と同じ期間使えるように修理をしています。初期不良率も新品と遜色ないため『新品と比べると割安だね』と納得してご購入いただくケースが多いのです」

エシカルパソコン「ZERO PC」
製造プロセスにおいては100%自然エネルギーを使用。商品発送の際もプラスティックの梱包材を一切使わない、緩衝材ゼロの段ボールを使用している。

1社だけでは解決できない課題

現在は専門知識のある正社員が6名(うち難民申請中のメンバー2人、定住ビザのある外国籍のスタッフ1人)、アルバイト4名(日本人)で修理と営業を行う。
「募集をかけると、2人の枠に10名が数日で集まってしまう。8人を断るのがとても心苦しくて…早く『みんな来ていいよ』と言える状態にしたい。今後2年間で、100人の難民申請者・認定者が働ける場所を作るというのが目標です」

世界全体で難民申請している人はおよそ2000万人。避難している人を含めると7000〜8000万人いるといわれている。「僕たち1社だけでは解決できません。どんどん他の会社さんにもノウハウを広げて、受け皿を広げたいと考えています。また海外にも同じような事業体で拠点を作ろうとも計画しています。日本で難民認定されなかった時に強制送還させられないよう、他の国での働き口を繋げられたら」
ピープルポートの挑戦はまだまだ続く。

修理が整い、出荷を待つ「ZERO PC」。
修理が整い、出荷を待つ「ZERO PC」。

購入することで課題解決の一旦を担う

PCを購入するという行為ひとつでも、紛争から逃れてきた難民の生活を助け、環境破壊を抑制し、紛争の火種を減らし、子どもへの支援にもつながる。「ZERO PC」は、私たち生活者の購買行動が社会課題の解決の一端を担うことを証明する商品といえる。

消費するためではなく、製造過程や製造元などの背景を知ったうえで商品やサービスを購入するという意識は今後ますます増えていくことが予想される。また、社会的な課題を解決する営みに対して個々人が参加できるプログラムやプラットフォームも増えていくだろう。

たとえばアメリカン・エキスプレスでは「メンバーシップ・リワード」のポイントを、支援金やドネーションとして使うことができるプログラムを3つの分野で用意している。まずは日常の中でできることからひとつずつ、行ってみてはどうだろうか。

【復興支援・緊急支援】「令和2年7月豪雨災害支援寄付金」「次の大規模自然災害に備える被災地支援の拠点用テント・プレハブ等の購入資金」など。
【海外医療・教育支援】「シリア難民の子どもたちに届ける診療費用(レバノン)」「国連UNHCR協会:難民の子どもたちへの教科書1人分相当の寄付」など。
【文化遺産・芸術保護】「東京国立博物館:文化財修理寄付」「世界文化遺産 総本山醍醐寺の桜の植樹」など。

TEXT : 柿本礼子 PHOTO : sono

▼ZERO PC 公式HP

LifExpress編集部

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