現金は悩みの種でしかない:ショップやバーはなぜカード払いを好むのか

October 29, 2019
現金は悩みの種でしかない:ショップやバーはなぜカード払いを好むのか
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先日奇妙な体験をした。バーにいたのに、ビールを買うことができなかったのである。いや、正確に言えば、ビールを買うことを拒否されたのだ。私は、マンチェスターのオックスフォード・ロードにある、運送用コンテナを改装した飲食ビル「Hatch」内の「Öl」にいた。このバーでは驚いたことに、支払いはカードのみ可能だった。しかし、銀行口座を持たずに現金で払ってきた人や、長年、常に懐のさびしいフリーランスをやってきた私のように、今も現金でやりくりしている人たちとの本能的な連帯を感じた私は、客がどう支払うかを店が一方的に決めることに気分を害し、のどの渇きを覚えつつ抵抗した。

私は席について、Hatchにある他の店で、昔ながらの現金で購入したカレーを食べた。するとÖlのバーマンが、私をなだめるために店のおごりでビールを1杯運んできた。私は彼にこのバーのキャッシュレス・ポリシーはエリート主義じゃないかと文句をつけた。1杯のビールをクレジットカードで支払うように強制されて喜ぶ人がいるだろうか。彼は、時間が短縮できることや、店舗に現金を置かない方がスタッフにとっていかに安全かを説明した。そして私たちは紳士的にお互いの意見が合わないことを認めたのだった。

私は後でこの事件についてÖlの共同オーナーであるDavid McCall氏に話したが、何もかも事前の想定どおりだとでもいうように、彼はどこまでも楽観的だった。

「Ölでは、カードを持っていない人やビザカードが使えなかった人にビールを無料で提供しています。それでも銀行に5,000ポンドの手数料を払うくらいなら、ビールをタダで出す方がよっぽどいいと思います。スタッフに安心して働いてもらいたいというのもあります。営業開始から2週間ほど経ったある日の夜中に、ハンマーを持った空き巣が店に入りましたが、彼らが持っていったのはiPad一台だけでした」

McCall氏がマンチェスターで経営しているカフェ「Takk」では現金支払いを受け付けている。Takkの本店では、その他のビジネスと同じく、銀行に現金を預けるため年間3,000〜5,000ポンドの手数料を支払っているが、学生向けの飲食店が多いHatchでÖlに続いて現金を取り扱わないTakkを開店することで、キャッシュレス化による銀行手数料の支払いを回避することができるという。

「私たちは最低賃金(生活賃金財団設定のレート)以上の賃金を支払っていますが、25名のスタッフの賃金をもっと上げたいと思っています」とMcCall氏。キャッシュレス化で節約したお金はその一助になるという。

しかし、ファイナンシャル・インクルージョン・コミッションによると200万人近くの銀行口座を持たない人々や、クレジットヒストリーがよくないためにカードが作れず、プリペイドやデビットカードの手数料を払うしかない人々はどうなってしまうのか。

Takkでは、キャッシュレス化の影響を最も大きく被るホームレスの人々に無料でコーヒーをサービスしている。これについてMcCall氏はこう述べている。

「私たちもコミュニティの人々の問題は認識しています。しかし、私たちが一部の人々を除外していると非難するのはお門違いで、それは銀行や政府にするべき話だと言うしかありません。スカンジナビア諸国はほとんどキャッシュレス化していますが、むこうでは事業者と政府がこの問題について討議しています

繁華街ではカード支払いのみの飲食店が続々と増えてきているイギリスでも、これはすぐに話し合いを進めるべき課題である。2014年からキャッシュレスになったロンドンの路線バスのネットワークを除き(南ロンドンの路面電車も2019年7月からキャッシュレスになっている)、ごく普通の店舗がキャッシュレス化するのは、これまでは一時的な実験でしかなかった。しかし今では、ブリストルの「Athenian」でラップサンドを、ロンドンのチェーン店「Tossed」でサラダを、またはパースシャーのアバフェルディにある「Habitat」のカフェでコーヒーを買おうと思ったら、クレジットカードで支払わなければならない(以前Habitatのオーナーは、地元の銀行が閉店した後、別の支店まで往復60マイルの旅を余儀なくされていた)。

ホスピタリティ業界にとっては、この問題は業界を二分しているように見えるかもしれない(アメリカでは、メディアからの批判と消費者の訴えを受けて、ハンバーガーチェーンの「Shake Shack」がキャッシュレス化の実験を中止している)。しかし、ロンドンのレストラン「Killer Tomato」のオーナーであるMatt Paice氏は、現金売上が30%程度かそれよりも少ない小規模事業者にとって「現金は悩みの種でしかない」という。

カードのみの会計は、飲食店の客にとって時短になるだけでなく、割り勘も簡単にできるうえ、費用対効果も高い(金庫も銀行手数料もなし、会計のミスも少なく、つり銭をあらかじめ用意する必要もない)。もしもKiller Tomatoで現金払いを認めていたとしたら「忙しい夜にはレシートと小口現金の計算と照合にスタッフ2名を配属しなくてはならないと思います。硬貨を数えるシニアスタッフにも給料を払わなくてはいけません」とPaice氏は言う。

レストランにとってカードと現金のどちらが安く済むかを評価するのは難しい。直接の手数料(英国小売協会の計算によると、カード支払い1回につき0.49%、現金支払い1回につき0.15%)のほかにも、間接費(スタッフの給与や設備)を考慮する必要がある。誰もが異なる計算式を使っている。どちらの方法がよりコスパに優れているかについては、レストランのオーナーたちの間でも意見が割れている。

しかし、ここで明らかなのは、「SumUp」や「iZettle」といった新しいカード決済代行会社が、ビジネスのキャッシュレス化を非常に魅力的なものにしていることである。Paice氏は、確立された「マーチャント・サービス(加盟店向けサービス)」を提供している会社(クレジットカードリーダーを長期契約で貸し出し、異なるカード決済に対し様々な手数料を徴収している)について、「複雑で意図的に不透明にしている。手数料がどれだけかかるのかを知るのは不可能です」と述べている。

それに対して、フィンテック・セクターの新しい事業者たちは、決済ごとに規定のパーセンテージを徴収する。契約も、高価なカードリーダーもない。「iZettleは支払処理に変革をもたらした」というMcCall氏はさらに、iZettleのコストは以前のプロバイダーの10分の1であるとも述べた。

Paice氏によると、キャッシュレス化に必要なインフラだけでなく、顧客側にもキャッシュレス化に対する熱意が既にあるという。ごくたまにカードを持っていない客に対応できないことがあっても、彼は次のように述べているという。

「この2年間に激怒したお客様は4人いました。本当に怒った人たちは、税金をごまかすために現金で支払っていたのではないかと思います。彼らは、私が貧しい人やお年寄りを差別しているといって、わざとらしく激怒してみせました。これはナンセンスです。本当にお金がない人はレストランで食事をしませんし、ロンドンに住んでいる人なら12歳でも90歳でも銀行カードを持っています。彼らが本当に言いたかったのは、『私は自分の収入を申告したくない』ということでしょう」

支払いの81%がデジタル決済されているスウェーデンでは、VAT(消費税)の納税額が5年間で30%上昇した。しかし「The War on Cash」の著者、Ross Clark氏によると、これは単に、キャッシュレス化をあくまでポジティブなものに見せようとしている銀行や政府、さらには「Master Card」や「Visa」といった巨額の手数料を徴収している事業者によるまやかしだという。

「現金を廃止することで脱税を防止できるというのはナンセンスです。理論的に決済は追跡可能ですが、これは実際に誰かが常に追跡しているということではありません」

スーパーマーケットのセルフレジにおける非接触決済からオンラインバンキングまで、決済のデジタル化は避けられないことのように見える。しかし、どういうわけか現金はこの逆境によく耐えている。Payments UKは、消費者による決済の44%が未だに現金で行われていると報告している。さらに奇妙なことに、イングランド銀行によると、カード決済の割合が劇的に増加し、現金の決済額が年間10%減少しているのにも関わらず、通貨流通高は過去最高であるという。

現金でしか支払いしないイギリス人はおよそ270万人だが、この数も上昇している。低い金利、2008年の経済恐慌後にタンス預金をしている人が増加したことや経済犯罪の増加などが、この奇妙な事実の背景にあるとよく言われている。しかし、少額の決済では現金を使いたくなるのが消費者心理ではないだろうか。2018年の「G4S ワールド・キャッシュ・リポート」によると、ヨーロッパではPOS決済における現金の使用が60%から79%へと上昇したという。

「人は現金を信用するものです。現金を使うのにお金はかからないし、すぐに手に入るし、プライバシーの面でも安心です。コンピューターのようにハッキングされたり、電源が切れたりすることもありません」とG4SのJesus Rosano氏は言う。

Clark氏は、データプライバシーの問題から地方ではブロードバンドの接続が悪いことに対する懸念まで、英国の人々が現金を使いたがり、また現金が使えるべきであることには様々な理由があると述べている。

「英国に住む人の10人に1人は一度もインターネットを使ったことがありません。65歳以上の人でスマートフォンを持っているのはたった19%です。これがキャッシュレス化を困難に感じているリアルな層です。なのに政府は彼らを経済から切り離すことは何の問題もないと考えているようです」というのは、元イングランド銀行業務局長のVictoria Cleland氏。2017年のスピーチではこう表現している

「現金は経済的なインクルージョンをサポートするのに不可欠です」

事業者とカード会社が主導する現金排斥運動では、食品とアルコール飲料が主戦場になっている。昨年度アメリカでは、Visaが「キャッシュレス・チャレンジ」キャンペーンを実施し、キャッシュレス化を行ったレストラン、カフェ、フードトラック50店舗に各10,000ドルを提供した。またよりスケールの大きなチェーン店にとっては、キャッシュレス化は思いがけない授かりものである。店舗の自動化と間接経費の削減が達成できるだけでなく、キャッシュレス・システムを使う際の心理状態を利用して消費を増加させることもできるという。マクドナルドのある店舗では、キャッシュレスカウンターを導入した結果、注文金額が30%増加したという。

音楽フェス「スタンドン・コーリング・フェスティバル」に出店するバーは2013年からキャッシュレスになっている。客はチャージ済みのリストバンドでコンタクトレス支払いを行う。これによって売上は24%増加し、その後も上昇し続けている。同フェスティバルの創始者、Alex Trenchard氏は、売り上げの上昇は、酔っぱらった観客が午前1時に浪費しているからではないと力説する。

「キャッシュレスによって、現金の取り扱いの間違いがなくなり、バーのオペレーションが加速し、待ち時間が短くなり、徐々に価格を上げることが可能になりました。便利なドリンクの提供が消費量を増やすのです」

Trenchard氏によると、フェスティバル客は、一定の金額をリストバンドにチャージすることによって、消費額を一定に抑えられる点が気に入っているという。

しかしながら、キャッシュレス決済を制御するものがないという側面こそが、バーにとっては商機であるともいえる。フィンテック企業「クリアスコア」が2016年に実施したアンケート調査によると、使い過ぎをクレジットカードのせいにする人は59%で、72%がコンタクトレス決済のおかげで、衝動買いをしやすくなったと答えている。例えば、土曜日の夜に一緒にいた友人全員にエスプレッソ・マティーニを奢ったとすると、この決済が銀行アプリに表示されるのは月曜日の朝になる。つまりこれが「二日酔い」の新しい定義になる。

「20ポンド札を実際に手にとって支払う時の手触りを伴う身体的な感覚がお金を使っていることを実感させるのです。しかしキャッシュレスでは、どういうわけかこの感覚が失われてしまいます」と語るのは、行動経済学を研究する「コウリー・コンサルティング」のJez Groom氏。同氏はApple Payを使ったときにiPhoneが出す音を、例えば10ポンド以下では軽く、30ポンド使ったときにはそれに相応しく重たくと、使った金額に合わせてバイブレーションを変化させるべきだと主張する。

スタッフが得たチップを店主が好き勝手にしていることで悪名高い飲食業界では、カード決済への移行も容易である。Killer Tomatoでは、全てのサービス料(任意で10%)はスタッフに支払われ、Paice氏はカードで支払われるチップの処理にかかる手数料を負担する。しかし、大企業のチェーン店ではこのように気前の良いところはないだろう。これもキャッシュレス化によってチップの習慣が完全になくならなければの話である。アバフェルディのHabitatはFacebookで、非常に多くの客がコンタクトレスカードを使うようになって、チップが驚くほど激減した、との内容を投稿している。

「テクノロジーがチップの息の根を止め始めました」

前述の理由だけでなく、さらに多くの側面も考慮して、ロンドンとマンチェスターでレストラン「 East Street」と「Tampopo」を経営するオーナーのDavid Fox氏は、キャッシュレス化を行うつもりはないという。しかし、英国が進んでいる方向を考えると、Fox氏は今後市場にギャップが生じ、紙幣や硬貨の持つ信頼感に飢えた人をターゲットにしたレストランが出てくることは容易に予測できるという。冗談めかして彼はこう尋ねた。

「レコードを買う人のように、現金を使う方が好きだという世代が出てくるかもしれませんね」

この記事は、The Guardian のTony Naylorが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。

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