インドのキャッシュレス化、世界のモデルとなる可能性

September 18, 2019
インドのキャッシュレス化、世界のモデルとなる可能性
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現金の抑制を目指すインド。二度目の挑戦は本腰を入れて。

インドが2016年11月に実施した、極めて厳しい高額紙幣の廃止政策の目的はそもそも、キャッシュレス社会の実現ではなかった。しかし、紙幣が急激に不足したことによってデジタルウォレットによる決済が進むと、国の行き過ぎた茶番を正当化しようとして、取ってつけたようにキャッシュレス社会の実現という目的が加えられた。

インドにおけるモバイル決済のイノベーションは、高額紙幣廃止の数カ月前から始まっていた。統合決済インターフェース(UPI)というインフラである。そうそうたる名称だが、考え方はシンプルだ。つまり、銀行Aの顧客であるスマートフォンのユーザーが、銀行Bに口座をもつ別のユーザーに対し、支払いを請求したり払い込みを行ったりすることができる。ユーザーにとってUPIを使うのに必要な情報は、互いの携帯電話番号またはバーチャルIDだけ。支払いの処理に双方で同じモバイルアプリを使う必要もない。

この点でインドは、シンガポールや香港のようなアジアのマネーセンターよりも一足先に進んでいる。140社を超すインドの銀行がUPIのインターフェースを共有し、さらにGoogle(親会社Alphabet Inc.)や、Facebookのアプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」がUPIを使った即時支払いサービスを提供するなど、高い注目を集める試みとなっている。このUPIは順調に普及が進んでいるように見える。3年足らずで、月間の取引数が開始時のゼロから8億件に達し、インドのUPIは急速に拡大してきた。スマートフォンの普及や通信料金の値下がりもUPIの拡大に大きく寄与した。

現在では、世界最大の生体認証データのリポジトリ(データ保管場所)をつくったことで知られるテクノロジー企業の共同創設者Nandan Nilekani氏が率いる委員会を、インドの中央銀行が設置し、UPIプラットフォームの利用をさらに広げようとしている。この委員会が目指すのは、国外に在住するインド人による為替送金や、国内居住者が海外旅行で行う支払いへとUPIを拡大することだ。「これはいわば、中国のアプリWeChatの中国人ユーザーが、多くの地域でWeChatを利用できるということです」と同委員会は2019年6月に発表された報告書で述べている。

この委員会の提案が実現すれば、インドは自前のWeChat Payを持つことになる。だが、WeChatはオープンソースのテクノロジーであるため、提供元の中国のインターネット企業Tencent Holdings Ltd.が独占するわけではない。GoogleとWhatsAppによるマーケットシェアの争奪戦が起こるだろう。Walmartが所有する「PhonePe」も、新たに導入された「Amazon Pay」も競争に加わるはずだ。ちなみにAmazon Payは世界的に見れば、PayPalが圧倒的優位のeコマースで今のところ存在感を示せていない。また、独自にUPIのサービスを提供するインドの各銀行や、インドの巨頭Mukesh Ambani氏の「JioMoney」、人気の高いデジタルウォレット「Paytm(ペイティーエム)」も参戦するだろう。

多くの企業がせめぎ合うこの市場で成功するのは誰か。報道ではGoogleが有利との見方が先行しているが、個人から加盟店(マーチャント)への支払いが個人間の取引を上回れば、この予想も変わり得る。eコマースの決済は、AmazonとWalmartが熾烈な争いを繰り広げるだろう。とはいえ、インドの小売業全体でオンライン販売の占める割合はほんの一部にすぎない。Ambaniは、提供するモバイルサービス「Jio(ジオ)」の利用者が3億人を超えた今、高いカード手数料を理由にキャッシュレス化に消極的な小規模店舗を説得しようとしている。もしもAmbaniの通信、小売、決済の取引が、新たなデータプライバシー関連法のハードルを越えてシームレスにまとまれば、たとえば、近くの食料雑貨店を訪れたJioの電話ユーザーが、店でUnileverのインド部門からSMS経由で割引クーポンを手にし、インドステイト銀行からその店で使えるストアクレジット(金券)の貸付けの提案を受けることが可能になる。Jioがさらに、オープンバンキング・プラットフォームを運用し、小規模店舗の発注や現金管理を支援するようになれば、Jio Payments Bankにある加盟店とサプライヤーの銀行口座間で、消費者の支出が循環することになるだろう。その仕組みは、Ambaniが囲い込むことになる。

高額紙幣廃止がもたらした一連の騒ぎや変化があったとはいえ、インドで一番多く使用されているのはいまだに現金である。インドの1人当たりのデジタル取引数は5年間で5倍に増えて22件に達したが、インドネシアでは34件、シンガポールでは2017年に782件であった。Nilekani氏の専門委員会は、2021年3月までにこれを10倍増の220件に増やそうとしている。この数字を人口13億人の国に当てはめると、取引数は膨大だ。だが、国内のプレーヤーとグローバルなテクノロジーが公平に競争をすれば、デジタル取引数の10倍増は無謀な夢ではないかもしれない。Walmartの株主は、インド最大のeコマース企業Flipkartの高額な買収を案じており、PhonePeを応援するはずだ。孫正義氏とWarren Buffett氏は保有するPaytmの株式から目が離せない。誰もがAmbaniの動向を注視していく。

インドのキャッシュレス化は、Narendra Modi首相の2期目として、1期目と同様に最も重要な出来事になるだろう。今回はハッピーエンディングとなるかもしれない。

この記事はBloombergのAndy Mukherjeeが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。

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