キャッシュレス社会のデメリット 強引な移行は悪影響?

August 28, 2019
キャッシュレス社会のデメリット 強引な移行は悪影響?
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対面取引の際に現金での決済を受け入れることを企業側に強制すべきか否か―米国内外で議論が高まっている。

サンフランシスコとフィラデルフィアでは小売業に対し、キャッシュレス決済だけでの販売を禁止している。銀行口座を持っていない可能性のある低所得者の差別につながるとの理由からだ。ニュージャージー州は州全体で同様の措置をとっている。米国議会でもキャッシュレス決済のみの店舗を禁止する2つの法案を審議中だ。

また世界銀行は、キャッシュレス商取引が世界中で増加していることにより、非常に多くの消費者や新興国のスモールビジネスが社会から取り残されるリスクがあると主張している。銀行口座を持たない人もいれば、信頼できる電子決済技術にアクセスできない事業主もいるからだ。

キャッシュレス化を進めるべきだという主張には、それがもたらす安全性や利便性、また事業上の観点から説得力がある。しかしそのようなメリットがあるからと言って、経済的弱者が取り残されることによる社会的なコストを軽視することはできない。

世界最大の規模(現金とデジタル決済を合わせて昨年は3,000億ドル超)で送金・支払業務を行う企業のCEOとして、私にはキャッシュレス化をめぐる議論の両陣営の論点がよく理解できる。だが経済的な不平等についての考え方がなんであれ、この議論ではもっと実際的な論点がある。キャッシュレス化を強引に、そして性急に推し進めれば、ビジネスに悪影響を与えるだけだということだ。現金の受け取りを拒否する会社は、世界中で取引されている多くの現金に手を付けられない。

世界でなされる取引の多くは未だに現金によるものだ。世界銀行のデータによれば、小規模小売業者による年間現金取引量は19兆ドルにのぼる。これは世界全体のGDPの四分の一近くに相当する額だ。これは貧困層の暮らす地域や所得の低い国に限った話ではない。世界的なセキュリティー会社G4Sの推計によると、欧州では昨年の実店舗での売上のうち79%は現金によるもので、60%だった2016年よりも割合が高くなっている。

また米サンフランシスコ連邦準備銀行の計算によれば、オンラインショッピングがますます盛んになっているにも関わらず、米国での決済の77%は今も対面で行われており、そのうち現金の割合は39%だ。また連邦預金保険公社(FDIC)による2017年の推計では、米国では840万世帯に暮らす成人1,400万人が、普通預金、当座預金に関わらず銀行口座を保有していない。

「キャッシュレス化」と聞くと簡単にできるように思いがちだが、実際にはまず銀行口座にリンクしたデビットカードやモバイルウォレットを所有していることが必要で、ビジネス側にとってもデジタル決済に必要な読取機などのツールやインターネットへのアクセスも必要となる。世界で約17億人の成人は、決済に必要な銀行口座を持っていない。言い換えれば、誰も取り残されないようなキャッシュレス経済に世界が完全に移行するには、まだまだ道のりは長いのだ。

ビジネスの現状にテクノロジーが追いついていないことを自分の目で確かめるには、カイロかナイロビの賑やかなマーケットを歩いてみるだけでよい。ケニアではいわゆる「支店のない銀行取引」が盛んで、一日当たり1,600万件の取引がM-Pesaと呼ばれるモバイルウォレットで行われる。さらにケニアでは、さまざまな日常の買い物の支払いをする際には現金が必要になることが多い。というのも、店頭にキャッシュレス決済のためのインフラがないからだ。

世界経済、そして世界的な観点で見たさまざまな顧客ニーズや利用可能なテクノロジーは、たった一つのアプローチで性急に物事を進めるには、多種多様すぎる。

オンラインショッピングが可能な国も含めた多くの国で、現金で支払わなければいけない場面に遭遇することが多々ある。アジア、アフリカ、南米などで数千万人もの消費者が、Amazonのサイトで買ったものの支払いを、現地通貨で対面で行えるようなシステムをWestern Union作り上げたのはそのためだ。これにより多くの新規見込顧客ができることとなり、Amazonのような企業もそれを歓迎している。

米国では、地域、州、そして(今や)連邦レベルで現金を受け付けない店舗を禁止しようとする動きがあるが、このことで健全な議論が醸成され、オンラインショッピングや自動引き落とし、オンラインホテル予約など世の中を便利にしてきた技術を可能にするために営々と築かれてきた巨大な電子決済インフラについて人々が意識するきっかけにもなった。これら最新テクノロジーによる円滑な決済を多くの人は当たり前のように思っているが、すべての人がその恩恵にあずかっているわけではない。

将来、より多様な決済方式が現れ消費者の選択肢が増えれば、それは世界中の人やビジネスに対して、今よりも遥かに大きなチャンスをもたらしてくれるものとなる。しかし、それを可能にするためには、私たちは「決済のエコシステム」についての従来の考え方を変えなければならない。現金通貨についてもイノベーションの余地はある。現在コンタクトレス決済などに使われているRFIDチップを埋め込んだスマートキャッシュが発行されることを想像してみてほしい。これによりセキュリティーが強化され、紙幣の偽造防止にもつながるだろう。

金融業界はより多様性を受け入れたインクルーシブなイノベーションを生み出すよう努力し、消費者に対して、住んでいる場所や金融サービスへのアクセスに関わらず、その人が利用できる選択肢を提供すべきだ。そして金融業界は、おそらく遠い将来まで続くであろう、現金とデジタル決済が共存する世界の複雑さを受け入れるべきだ。

金融業界、IT業界、政府のリーダーは一丸となり、決済イノベーションの未来を再考すべきだ。まずは、多様性を受け入れた金融面でのインクルージョンを、中核的な価値観として据えることから始める。ビジネスにとって、これはやるべきことであるだけではない。グローバル経済に完全にしっかりと関っていくための、唯一の道でもあるのだ。

 

この記事はFORTUNEHikmet Ersekが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。

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